仕事のメモが増えるだけの会社員へ|あとで使える手順書に変える整理法
「あの設定のやり方、前にメモしたはずなんだけど」
ノートをめくり、チャットの履歴を検索し、付箋の山をひっくり返す。10分探して見つからず、結局また同僚に聞く——。まじめにメモを取っている人ほど、こんな経験に心当たりがあるのではないでしょうか。
この記事は、メモを増やすための記事ではありません。すでに取っているメモを、次に同じ作業をするとき、そのまま使える小さな手順書に変える整理法を紹介します。
まじめにメモを取る人ほど、メモに埋もれていく
教わったことは必ず書き留める。会議の内容も、作業の注意点も残してある。それなのに、いざ必要になると出てこない。
原因は記憶力でも、まじめさの不足でもありません。書いた場所がバラバラで、走り書きのまま時間が経ち、書いた本人にも解読できなくなっているだけです。「申込書確認、名前、日付、金額に注意」——書いた瞬間は完璧に分かっていたこのメモが、3週間後には暗号になります。
とくに困るのが、月に1回、年に数回しかやらない作業です。月次の集計、年末の申請、たまにしか来ない依頼。前回のメモを見つけても、断片的すぎて結局ゼロから思い出す羽目になる。この「毎回思い出し直すコスト」が、じわじわと時間と気力を削っていきます。
足りないのは量ではなく、「読み返す場面」の設計
メモが役に立たない本当の理由は、書くときに「いつ、どんな場面でこれを読み返すか」が決まっていないことにあります。
メモの価値が生まれるのは、書いた瞬間ではなく読み返した瞬間です。ところが多くのメモは「忘れないように」という不安から書かれていて、読み返す場面を想定していません。だから、書けば書くほど埋もれていきます。
これは紙でもデジタルでも同じです。自分宛てのチャットに送った手順、撮っただけのスクリーンショット、どこかのフォルダに保存した議事メモ。デジタルは検索できるぶん安心してしまいがちですが、何というキーワードで書いたか忘れれば、検索でもたどり着けません。
そこで発想を変えます。仕事のメモの読み返し場面は、実はほとんど一つに絞れます。「次に同じ作業をするとき」です。ならば、その場面でそのまま使える形——つまり小さな手順書に整えておくのが、いちばん確実な設計になります。
走り書きは捨てる前提でいい
といっても、その場のメモを丁寧に書く必要はありません。むしろ逆です。
メモは2種類に分けて考えます。ひとつは、話を聞きながら殴り書きする「走り書き」。これはスピード優先で、汚くてかまいません。もうひとつが、あとで使うために整えた「残すメモ=手順書」。保存するのはこちらだけです。
走り書きは手順書に変換したら捨てる、と決めてしまう。この割り切りで、「あのメモどこだっけ」の探し物は激減します。探す場所が、手順書の置き場ひとつになるからです。置き場はノートの後ろのページでも、メモアプリの専用フォルダでも構いません。「手順書はここにしかない」と言い切れることが重要です。
捨てる前提が決まると、走り書きの取り方も楽になります。一言一句を書き取ろうとせず、キーワードと数字だけ拾えばいい。きれいに書けなかった不安が残っても、あとで整える工程があるので大丈夫、と思えるからです。
作業が終わった直後の5分が、変換のゴールデンタイム
走り書きを手順書に変えるタイミングは、その作業が終わった直後がいちばんです。記憶が新しいうちなら、走り書きの行間を埋められます。翌日になると、もう自分の字が読めません。
整える時間は5分で十分。残す項目は、作業名、始める前に用意するもの、手順、確認する箇所、困ったときの連絡先です。実際に変換すると、こうなります。
ポイントは、未来の自分を「何も覚えていない新人」だと思って書くことです。3か月後の自分は、今日の自分が当然と思っている前提をすべて忘れています。「どこから始めるか」「終わりをどう確認するか」まで書いてあれば、思い出す作業ゼロで手が動きます。
「迷った場合の連絡先」も、地味に効く一行です。手順が分からなくなったとき、誰に聞けばいいかが書いてあるだけで、止まっている時間が大幅に減ります。人の名前が変わりうる職場なら、部署名やチャットのチャンネル名で書いておくと長持ちします。
なお、すべての作業を手順書にする必要はありません。対象は「2回以上やると分かっている作業」と「久しぶりだと思い出せない作業」だけ。毎日やっていて体が覚えている仕事に、手順書は要りません。絞るからこそ、続きます。
この5分は、1日の終わりの習慣に組み込むと続きます。仕事を締めくくる「終業メモ」の時間と相性がいいので、帰宅後の頭を休ませる「仕事じまい」の作り方とセットで試してみてください。
未来の自分がつまずく場所に、目印を置く
手順書の中で価値がいちばん高いのは、実は手順そのものではなく「間違えやすい箇所の注意書き」です。
一度つまずいた場所、勘違いしていた設定、見落とした確認欄。そこに「※ここで迷ったら○○」「※この欄は空欄のままでよい」と一言添えておく。行頭に記号を付けるなど、パッと見て分かる形にしておくと、急いでいるときほど効きます。
失敗した直後は、手順書を育てる最大のチャンスでもあります。ミスの再発防止をチェックの仕組みに変える考え方は仕事のミスを仕組みで減らす方法で詳しく書いていますが、手順書への一言追記は、その中でもいちばん手軽な形です。
手順書は「増やす」より「上書きする」
整理法として、もうひとつ大事なルールがあります。同じ作業の手順書は1つだけにして、変更があったら新しく書き足すのではなく、上書きすることです。
「4月版」「7月版」と増やしていくと、どれが最新か分からなくなり、古い手順で作業してしまう事故が起きます。手順書を使ったときに「あれ、ここ変わったな」と気づいたら、その場で直す。使うたびに正しくなっていく、生きた1枚を保つイメージです。
そして、最初から完璧なマニュアルを作ろうとしないでください。体裁を整え、あらゆる例外を網羅しようとすると、作ること自体が重い仕事になって続きません。6割の出来で使い始めて、使いながら育てる。個人の手順書は、それで十分に機能します。
メモが「自分を助ける道具」に変わる
手順書が数枚たまってくると、仕事の景色が少し変わります。年に数回しかない作業も、手順書を開けば迷わず始められる。人に聞き直す回数が減り、「前にどうやったっけ」と探し回る時間も消えていきます。
うれしい副産物もあります。自分用の手順書は、後輩への引き継ぎや、休暇中に仕事を頼むときの資料として、ほぼそのまま渡せるのです。「自分のためのメモ」が、いつの間にかチームの資産にもなっていきます。
探し物と思い出す作業が減ることは、集中の面でも大きな意味があります。作業の途中で手が止まらなくなるからです。集中しやすい環境づくりは気合いより効く「環境」の整え方で紹介していますが、手順書はその環境の一部になってくれます。
今日からできる小さな一歩はひとつだけ。今日やった作業の中から1つ選んで、5分で手順書の形に書き直してみてください。
その1枚が、3か月後のあなたを確実に助けます。メモは、書きっぱなしなら記録で終わりますが、整えれば道具になります。

